山下佳恵詩集『あなたへ』


希望の種となって


沈丁花の香が漂い 白木蓮が花咲く準備をしています
もう  二年が経とうとしているのですね
あの日 大地が揺らぎ 震災に失った言葉
そして 経済が揺らぎ 人災に苦しむ生活
さらに 未来が揺らぎ 心災に煩う 精神

安全でないものを安全だと宣言し
海に 空気に薄められた放射能は巡り巡って拡大し
最悪の始まりの瞬間となった「 あの日 」

遅々として進まない「 復興 」
ドジョウは水底深く潜ったままで
アリは新しい飴に群がり
シロアリは内部を食い荒らしていました

変わってしまったものの悲しさと
変わらないままのもどかしさ

何も悪いことなんかしていないのに
真面目に働いて頑張ってきたのに
無念の叫びが 吹き抜ける風に聞こえてくるようです

生きたくても生きられなかった人
いま  まだ行方がわからない人
いつか何かの種となって大地に芽吹き花が咲きますように

長い歳月が経つと人々の記憶は薄れていってしまうでしょう
忘れていけないことは
刻みつけ 語り 受け継いでいかなければならないのです

雄大な自然が息づく 生命へのバトンを
安全な生活が営める 社会へのバトンを
幸せな将来が描ける 未来へのバトンを
胸を張って 渡せるように

もう少しで白木蓮もモコモコの毛皮を脱いで真っ白な大きな
花を空に向かって咲かせ春の訪れを告げるでしょう
桜の花が咲き、桃、雪柳、山吹の花も次々に咲いていきます
どんな逆境の中でも花を咲かせようとする植物
希望の種となって 絶望なんか肥やしにして
大地に芽吹き花が咲きますように
心から そう 祈っています



「 希望の種となって 」( 了 )

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